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マウスの微生物学的品質規格に関するCDBのポリシー
理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター
動物資源開発室

 

 動物の授受における感染リスクの回避は、分与側における微生物モニタリングと受理側における検疫・隔離によってなされる。しかし、分与・受理いずれのサイドにおいても、リスク回避には限界がある。分与側では、品質規格の相違が問題である。排除すべき微生物、もしくはモニタリングする微生物が、研究機関の間で統一されていない。検査方法も統一されていない。感度、特異性といった検査の精度管理も、国際標準化されるに至っていない。

 その結果、受理側は、分与動物の品質が自施設の基準に適合しているかどうかを判断するために検疫を行う。徹底的に検疫して感染リスク回避している施設がある一方、受理動物を体外受精で浄化してから持ち込む施設も知られている。
 このような動物授受における煩雑な作業を回避し、SPFという用語がもたらす混乱を避けるために、われわれは、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(以下、CDBという)で作出、維持、繁殖するマウスの微生物学的品質規格(微生物学的プロファイル)を規定し、あわせて微生物モニタリングに関するポリシーを定めた。

 

CDB動物施設のポリシー


  • 実験成績の科学的信頼性を高め、動物実験を倫理的に実施するために、マウスの微生物学的品質規格を設ける。


  • 規格通りに品質が維持されていることを担保し、研究所における感染症の発生と伝播を予防し、マウスの授受時における無用なトラブルを避けるために、微生物モニタリングを取り入れる。


  • モニター動物の検査は、検査結果の客観性を確保するために、第三者機関に依頼する。


  • マウスの授受は原則凍結胚で行うのが望ましいと考える。


  • 凍結胚でマウスを分与する機関に対しては、要望に応じて、凍結胚の解凍技術を指導する。


  • マウスを生体で分与するときには検査結果を開示し、このような情報提供によって、変異マウスの円滑かつ安全な授受を推進する。


  • 研究機関同士の動物授受における感染症予防の責任は、授受双方に等しく存在すると考える。

 

 背景


 ICLASモニタリングセンター(実中研に附置)は、マウスに感染することが知られた微生物・寄生虫をそれらの病原性に基づいてA-Eのカテゴリーに区分している。


  A:マウスからヒトに感染する人獣共通病原体


  B:マウスに致死的な病原体


  C:マウスを致死させないが、生理学的免疫学的機能に影響を及ぼすことのある病原体


  D:X線照射など、強度の免疫抑制下でマウスを発症・致死させることのある日和見感染菌


  E:病原性は明らかでないが施設の汚染の指標となり得る寄生虫


 さらにICLASは、病原性に焦点をあてたこのカテゴリー区分に国内・欧米における検出頻度を加味して、ルーチンなモニタリングの対象とすべき微生物を、血清反応、培養、鏡検の各セットIにリストした。CDBは、このセットメニューに含まれる微生物と寄生虫をモニタリングの対象に選んだ。

 

CDBにおけるマウスの微生物学的品質規格


 上記のカテゴリーAまたはBに属す微生物は、それらのヒトまたはマウスに対する病原性により、研究推進ならびに動物福祉の両面から障害になるので無条件に排除する。一方、カテゴリーC、DまたはEの微生物・寄生虫は、状況に合わせて取捨選択すべきものと考えるが、検査成績が動物の授受に際して有用な情報となり得るものが含まれているので、分与先の要望にも配慮する。さらに、宿主マウスのコンディション(先天的・後天的免疫不全など)に依存して、病原性が強調されることがあるから、特に汚染頻度の高い微生物には注意が必要である。以上を勘案すると、表に示すようにカテゴリーAまたはBに属す微生物に加えて、C、DまたはEに属す微生物・寄生虫の一部もモニタリングの対象にとりあげ、感染の有無を常に把握する。

コア・バッテリcore battery:カテゴリーAまたはBに属す7種類の微生物を選択した。それらが陰性であることをCDBマウスの品質規格とする。

カテゴリーA: リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスlymphocytic choriomeningitis virus
       サルモネラSalmonella spp.

カテゴリーB: エクトロメリアウイルスEctromelia virus
        マウス肝炎ウイルスMouse hepatitis virus
        センダイウイルスSendai virus
        肺マイコプラズマMycoplasma pulmonis
        腸粘膜肥厚症菌Citrobacter rodentium

サプリメント・バッテリsupplemental battery:カテゴリーAまたはB以外の微生物・寄生虫で、その汚染頻度からICLASがモニタリングのセット項目に取り上げている微生物と寄生虫もモニタリングの対象に加える。

カテゴリーC: ティザー菌Clostridium piliforme
        ネズミコリネ菌Corynebacterium kutscheri
        肺パスツレラPasteurella pneumotropica
        消化管内原虫Intestinal protozoa

 カテゴリーE: 蠕虫類Helminth
        外部寄生虫External parasites


 スポットチェックSpot check:上記以外の微生物はモニタリングの対象とせず、必要もしくは要望に応じて臨時検査する。
EDIM virusからReovirus type 3まで、7種類のウイルス、CAR bacillusからStaphylococcus aureusまで4種類の細菌、皮膚糸状菌Dermatopytes、カリニ原虫Pneumocystis cariniiおよびネズミ大腸蟯虫Aspiculuris tetraptera


 検査の実施および検査結果に対する対応


  • コア・バッテリ:少なくとも年4回、外部機関に定期検査を依頼する。検査結果は全項目陰性でなければならない。汚染が判明したら、凍結保存胚を用いるか体外受精で速やかにコロニーを再構築する。


  • サプリメント・バッテリ:少なくとも年2回、外部機関に定期検査を依頼する。検査結果は、陰性とは限らない。汚染したら隔離飼育し、別途体外受精で陰性コロニーを立ち上げ、隔離した汚染コロニーと置き換えるように努める。陽性マウスを供給する場合は、分与先に検査結果を開示して注意を喚起する。


  • スポットチェック:定期検査は行わない。マウスの免疫学的状態、外部からの要望等に応じて検査する。検査結果は、陰性とは限らない。汚染したら必要に応じて体外受精で陰性コロニーを立ち上げ、汚染コロニーと置き換えることを検討する。分与先に検査結果を開示する。

 

 まとめ


 これまでは、モニタリングで陽性反応を示したコロニーは淘汰する、という考え方が一般的であった。そのため、病原性の微弱な微生物は検査したがらない傾向があった。CDBは、モニタリング対象微生物はすべて陰性でなければならない、という考え方を採用していない。すなわち、検査対象微生物・寄生虫を定期検査項目(モニタリング)と臨時検査項目(スポット・チェック)に大別し、さらにモニタリング対象微生物・寄生虫を、常に陰性でなければならないコア・バッテリと陰性であることにこだわらないサプリメント・バッテリに区分した。そして、コア・バッテリに含まれる微生物が陰性であることを、CDBが作出、維持、繁殖するマウスの微生物学的品質規格と規定した。


コア・バッテリ:汚染したら直ちに浄化しなければならない高度病原体
サプリメント・バッテリ:即時浄化はしないが、汚染マウスを隔離すべき病原体
スポットチェック:ICLASのセットメニューには含まれないが、必要に応じて検査する病原体
感染症の伝播を確実に防ぐために、凍結胚による授受を原則と考える。しかし分与先から要望があれば、生体による供給も行う。この場合、すべての検査結果を分与先に開示する。

Microbe Check List
Core Battery of RIKEN CDB mouse pathogens
Category
Lymphocytic choriomengitis virus(リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス)
A
Salmonella spp.(サルモネラ)
A
Ectromelia virus (エクロトメリアウイルス)
B
Mouse hepatitis virus (マウス肝炎ウイルス)
B
Sendai virus (センダイウイルス)
B
Mycoplasma pulmonis (肺マイコプラズマ)
B
Citrobacter rodentium (腸粘膜肥厚症菌)
B
Dangerous organisms which must be eliminated
To monitor periodically
 
Supplemental Battery
Category
Clostridium piriforme (ティザー菌)
C
Corynebacterium kutscheri (ネズミコリネ菌)
C
Pasteurella pneumotropica (肺パスツレラ)
C
Intestinal protozoa (消化管内原虫)
C
Helminth (蠕虫類)
E
External parasites (外部寄生虫)
E
Organisms to be monitored as useful infomation
To monitor periodically
 
Spot Check
EDIM (Rota) virus, Minute virus of mice/Mouse parvovirus, Mouse adenovirus, Mouse cytomegalovirus, Mouse encephalomyelitis virus GDVII, Pneumonia virus of mice, Reovirus Type 3, Cilia-associated respiratory (CAR) bacillus, Helicobacter hepaticus/bilis, Pseudomonas aeruginosa (緑膿菌), Staphylococcus aureus, Dermatophytes(皮膚糸状菌), Pneumocystis carinii(カリニ原虫), Aspiculuris tetraptera(ネズミ大腸蟯虫)
To check as needed/requested