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更新日 2018年8月15日

米 村 研 究 室


光学顕微鏡の技術と画像のページ

  固 定

タンパク質の変性ということで固定を捉えるなら、化学的、生化学的に理解はされてきています。しかし、ある固定法を用いた時、それぞれのタンパク質がどのような構造になるのか、などについてはほとんどわかっていません。その点で、蛍光抗体法において適切な固定法を見いだすと言うことは、試行錯誤を必要とする段階と言えます。蛍光抗体法に適した固定というのは、抗原が流出したり、本来の分布を変えてしまわない固定、抗体と抗原との結合を妨げない固定、また抗体が本来の抗原以外の物質と結合してしまうようなことのない固定と言うことになります。化学的にタンパク質への作用が異なる固定法がありますので、それぞれを分けて説明していきます。

脱水(乾燥)


 通常固定とは見なされない方法です。培養細胞を培養液から出して乾燥させれば、細胞の変形も著しいし、いろいろな変化が起こって正常なタンパク質の分布を反映した状態とは考えられないからです。ただし、凍結切片等の場合、生の試料を凍結し、薄切後ガラス上 に回収し、乾燥させることがあります(その後に通常の固定を行う)。タンパク質は乾燥によっても結合水が奪われて変成してしまいます。経験上、細胞をそのまま固定液に浸けて固定した時の効果と切片にして乾燥を経て固定した時の効果とは異なるので、生の組織を凍結して切片にする方法を取っている場合は、乾燥によるタンパク質の変性の効果も考慮に入れるべきでしょう。


有機溶媒


 ごく短時間での脱水の効果が期待できるものです。メタノール、エタノール、アセトンなどが用いられます。低分子で細胞内に入り易いのですが、脱水の作用が強く、それによって細胞や組織を大きく変形させることがあります。そのため、切り出した組織の一部を有機溶媒に浸けて固定するのは一般的ではありません。培養細胞の場合にはよく使われますが、この場合、有機溶媒を冷やしておいて(しばしば-20度)、細胞の付着したカバーグラスを浸します。おそらく、脱水によって細胞が変形する前に細胞内の水分が凍結し、その後は凍結した水分と外液の有機溶媒が置換していく形で脱水が完了すると思われます。一方で、脱水によってタンパク質の結合水を奪って変性させるやり方は、後に述べるTCAによる変性や、化学修飾を伴うアルデヒドによる変性と比較すると、固定としては弱く、試料をPBSに戻した時に活性を取り戻すタンパク質も存在します。これは抗原が不可逆的な変化を起こしにくいことを意味しており、事実、多くのモノクロナル抗体は有機溶媒固定した試料によく反応します。有機溶媒の場合、膜構造は抽出されるので一般に脱膜の操作は行う必要がありません。


TCA(トリクロロ酢酸)・アルデヒド


生化学的にタンパク質を強力に変性させ活性をなくすともに沈澱させる物質です。酢酸のメチル基の部分は炭素1原子に水素3原子が結合していますが、TCAではその炭素原子には巨大で電離していない塩素が3原子結合しています。有機化学で習ったように、本来カルボン酸である酢酸は電離の程度は弱く、弱酸でしかありません。しかし、TCAでは、電気陰性度の高い塩素3原子が引っ張るのでカルボン酸の癖に100%電離して強酸となっているという分子です。強酸であるだけでは、固定剤としては使われることがありませんが、TCAの場合、巨大で電離していない塩素原子を含む頭部が、タンパク質のペプチド結合(タンパク質を構成しているアミノ酸間の化学結合の様式)にくっついて、本来ペプチド結合にくっついている結合水(タンパク質が水に溶ける、すなわち生理的な条件で正しい構造を取るのに必要な、タンパク質にごく密接に結合している水分子)をはじき出してしまい、その結果タンパク質が変性してしまうのだとされています。TCAはあらたに共有結合を作るわけでもなく、脱水の程度も有機溶媒に比べれば中途半端にも思えますが、実際には有機溶媒とは大きく違って、生化学では大変強力な変性剤として使われています。このような酸は組織化学(組織切片の様子を様々な染色を通じて探る分野)では組織ブロックの固さの調節用にしばしば使用されてきましたが、TCAが蛍光抗体法において、形態保持の十分な固定剤として使えること、他の固定法にない利点があることなどは私たちが示して、蛍光抗体法用の固定法として条件を開発してきました。すなわち、TCA固定した細胞でないと正確に細胞内の分布を示せないという抗体がいくつか存在するということです。その理由は、おそらく上記のTCA特有のタンパク質の変性の仕方によるものと思われます。抗体が認識するタンパク質の特定の部位がTCAによる変性でないとうまくタンパク質表面に露出しないということがあるのだろうと想像しています。TCAの場合、膜構造そのものには傷害を与えないので脱膜が必要です。


 ホルムアルデヒドとグルタルアルデヒドが含まれます。アルデヒド基はタンパク質中のアミノ基に結合し、それにより正常な構造がとれなくなり変性させます。あるいは、アルデヒド基がそのタンパク質内外のアミノ基と結合して架橋を行うことによりさらに強力に固定作用を発揮します。この架橋の作用はグルタルアルデヒドにおいて強く、電子顕微鏡レベルの構造保持にも欠かせません。さて、このように細胞の構造保持には強力なアルデヒドですが、化学結合をタンパク質上で作ってしまいますので、抗原の構造そのものを変化させる可能性があること、また、架橋等によりタンパク質ないしはタンパク質の複合体を固めてしまって、かりに抗原が保存されていてもそこまで抗体が到達できない状態になってしまう可能性があります。実際に、高濃度のグルタルアルデヒド固定に耐える抗原、抗体の組み合わせは非常に少ないですし、グルタルアルデヒドよりはホルムアルデヒド、それも低濃度のホルムアルデヒドの方が反応性が良いと言う場合は一般的に多いのです。もっとも、細胞内でのタンパク質の構造保持ができないため正しい分布が示せないと言うこともあり、例えば、微小管を構成するチューブリンに対する抗体は強い固定に耐えるものが多いのですが、低濃度のホルムアルデヒドでは微小管自体が保持できず、高濃度のホルムアルデヒドで固定して初めて連続した美しい微小管像が得られるという場合があります。アルデヒドの場合もきちんと脱膜をする必要があります。固定の際、細胞膜の一部におそらく亀裂が入り、脱膜の操作なしに細胞内が抗体で染め出される場合があります。しかし、短時間の洗浄では洗い切れなかった抗体(ひょっとすると2次抗体のみ)を見ている可能性があります。脱膜が十分かどうか(細胞によっても十分なTriton X-100の濃度と時間は異なります)は、染色像に確信が持てないとき等に一度疑った方が良いかもしれません。




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