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更新日 2018年8月15日

米 村 研 究 室


接着斑に着目した細胞運動機構の解析


接着斑を構成・制御するタンパク質、タリン (talin)

細胞運動は個体発生や器官形成、免疫反応に必須の生命現象であり、また、がん細胞では運動に異常がある事が知られています。これら細胞運動の分子機構はまだ充分に解明されていません。細胞は運動するために周囲に接着し、その接着構造(接着斑)を通して周囲の状況を認識しつつ、運動のための力を地面に伝えます。近年、接着斑はその形や構成分子、動的挙動が細胞種や周囲の環境によって異なるだけでなく、一つの細胞内でも一様でない事がわかってきています。私は異なる接着斑にどのような機能の違いがあるのかを、接着斑の構成分子であるタリン (talin) と呼ばれるタンパク質に焦点を当てて調べています(下図参照)。タリンは様々な生物で二つの相同体がある事が分かっており、一方については既に接着斑の形成・制御、接着斑を介した細胞内外の信号伝達等に重要な役割を果たしている事がわかっていますが、二つのタリンにどのような機能の違いがあるのかはわかっていません。二つのタリンの機能の差異を明らかにする事により、異なる接着斑の機能の違いを知る大きな手がかりが得られる事を期待しています。

地図

細胞運動研究に適したモデル生物、細胞性粘菌 (Dictyostelium discoideum)


 細胞性粘菌は増殖期には単細胞アメーバとしてバクテリアなどを捕食しながら這い回っていますが、飢餓状態に陥ると10万個ほどのアメーバが集合して、多細胞体を形成し、最終的に柄と胞子からなる子実体を形成します(図1)。このアメーバ細胞は、その運動の形態や運動に関与する分子が動物細胞と類似しているため、基本的な運動メカニズムは動物細胞と同じであると考えられています。さらに、遺伝子破壊が容易で、種々の遺伝子操作の技術も確立しており、培養も簡便なので細胞運動研究のモデルとして確立されている生物です。粘菌は二つめのタリンが見つかった最初の生物であり、それぞれの遺伝子欠損株の解析が進んでいます。最初に見つかったタリン(タリンA)の欠損株は、単細胞の時期に基質への接着が弱く、細胞質分裂にも欠陥があるため、多核細胞が増えるという表現型があります(参考文献1)。一方、二つめのタリン(タリンB)の欠損株は、タリンA 欠損株のような欠陥はみられませんが、多細胞体形成時に運動能力が弱いため子実体を形成できません(参考文献2、3)。これら欠損株の表現型の違いから、粘菌の二つのタリンは全く異なる機能をもつように見えます。ところが、二つのタリン遺伝子を同時に潰した二重破壊株では、それぞれの欠陥がよりひどくなるため、お互いにある程度似た機能を持っており、補い合う事が出来る事がわかります(投稿中)。今後は二つのタリンの局在や動的挙動の違い、結合タンパク質の違いなどから、それぞれのタリンの特異的な機能を明らかにしたいと考えています。


1、細胞性粘菌子実体(scale bar; 20μm)
地図


2、形態形成の途中で止まったタリンB 欠損細胞の集合体 、   


上から(scale bar; 1mm)地図地図





底質に接着している野生株アメーバ(左)と接着できずに丸い形をしているタリンA、タリンB 二重欠損株
(scale bar; 20mm)
地図
タリンB (赤)とアクチン(緑)の細胞内局在。アクチン(緑)のみが見えている細胞はタリンB 欠損細胞

参考文献

1Niewohner, J., Weber, I., Maniak, M., Muller-Taubenberger, A. and Gerisch, G. (1997). Talin-null cells of Dictyostelium are strongly defective in adhesion to particle and substrate surfaces and slightly impaired in cytokinesis. J. Cell Biol. 138, 349-61.

2M. Tsujioka, L.M. Machesky, S.L. Cole, K. Yahata and K. Inouye. (1999) A unique talin homologue with a villin headpiece-like domain is required for multicellular morphogenesis in Dictyostelium. Current Biology 9, 389-392.

3M. Tsujioka, K. Yoshida and K. Inouye. (2004) Talin B is required for force transmission in morphogenesis of Dictyostelium. EMBO J. 23, 2216-2225







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