透過型電子顕微鏡で生物試料の切片を観察しましょう。
                 透過型電子顕微鏡関連技術

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更新日 2018年8月15日

米 村 研 究 室




どのようにして画像が見えるのか

 電子顕微鏡は試料に電子を照射してそこから得られる情報から試料の何らかの構造をイメージとして表す装置です。透過型電子顕微鏡は試料に電子を照射した後、それを透過して出てきた電子の情報から画像を作ります。試料を透過させるためには電子に高い電圧をかける必要があり(電圧が低いと試料を電子が通り抜けられない)、生物試料の場合、通常10万ボルト程度です。試料内の原子の原子核は電子と相互作用をして、透過する電子の向きを変えます。蛍光板を電子が試料を透過した後に当たるような位置に置きますと、電子の当たった部分は蛍光板が光ります。また、電子が試料内の原子核と相互作用して向きが変わると、蛍光板のその位置には電子がやってこないので、蛍光板は光らず、ちょうど影のように暗くなります。このように電子のやってくる所とやってこない所との明るさの差からコントラストのある画像ができることになります。この作用は、原子番号の大きい、重い原子核ほど強く、生体を構成しているH, C, O, Nなどではそれほど強くありません。そのため、一般的には重金属(鉛やウラン)を試料にしみ込ませます。生体試料は均一に重金属と結合するわけではなく、タンパク質や脂質の一部等に強く結合するので、生体のそのような構造を反映した像が蛍光板に映し出されます。蛍光板上の像を観察することもでき、また、蛍光板の代わりにフィルムを置いて、画像を撮影することもできます。また、CCDカメラを置けば、デジタル画像として記録することも可能となります。


固定から包理まで

 透過型電子顕微鏡の原理から、試料中を電子が全てそのまま通り抜けてしまったら像のコントラストがつきませんし、また、試料中を電子が通過できなくても情報が得られません。通常の生体組織内の構造を見ようとする場合、電子線がほどよく透過し、ほどよく試料と相互作用するようにするため、試料を100 nm以下の厚さにスライスすることがよく行われます。電子が流れるために電子顕微鏡内は高真空になっていますから、生の生体試料を薄いスライスにしたとしても、水分が乾燥し試料はひからびて、生きている時の構造からかなり変わったものになってしまいます。また、実際問題として、生の生体試料を薄くスライスすることは不可能です。真空中でも生体の構造が変わらないようにするためには、試料の水分を抜く必要がありますが、そのままではひからびるだけですので、生体分子が動かないように化学架橋(固定)をし、生きている時の構造を保った状態で、試料の外液を有機溶媒にして試料から水分を抜きます。さらに、試料を樹脂包埋します。この樹脂には接着剤に使われるエポキシ系樹脂が一般的に使われます。エポキシ系樹脂は硬化した時の体積の変化が非常に少ないことから生体構造を破壊せずに保つことができます。また、その堅さも50 nm-500 nmの厚さの切片が簡単に作製で切る程度に調整できます。以上のような理由から、通常、試料を固定し、脱水、樹脂包埋を経て切片を作製します。

 一般的な固定は、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒドなどのアルデヒドを含む前固定と、四酸化オスミウムを含む後固定との2段階からなります。アルデヒドはタンパク質のアミノ基と化学結合を作り、タンパク質を変性させます。特にグルタルアルデヒドはアルデヒド基を分子の両端に持ち、タンパク質を架橋する能力が高いので電子顕微鏡レベルでの構造保持には大変有用です。一方ホルムアルデヒドは架橋能力が高くはありませんが、低分子で浸透性が良いので、迅速な固定のために併用されることが多いのです。四酸化オスミウムは強力な酸化剤で、蒸発しやすく、ドラフト内で使用しないとその蒸気でも鼻腔粘膜、角膜等が冒されてしまうほどです。オスミウムの使用が近代的な電子顕微鏡法の象徴とみなされていた頃の教科書には、先進的な研究室ではオスミウムの甘い香りが漂っている等と書かれていたことがありました。もちろん、甘いと感じられるうちは良いのですが、においがわからなくなってきたら、それは鼻腔粘膜がやられてきたことを示します。樹脂包埋というのは細胞内の構造を保つにはかなり厳しい処理らしく、前固定にグルタルアルデヒド、後固定に四酸化オスミウムという組み合わせでの固定をしないと、細胞内構造が保たれないことがあります。前固定、後固定と2段階に分かれているのは、アルデヒドが還元剤、四酸化オスミウムが酸化剤なので、両者の効果が相殺されないようにするためという理由付けがなされていますが、固定に関する科学は難しくて進んでおらず、実際に両者を同時に使用して問題ない像を得ているという研究者もいます。

 さて、前固定は1時間から一晩ほど行われ、また、この段階では冷蔵での長期保存が可能とされ、実際に1か月ほどの保存ではほとんど差を認めることがないことが多いようです。後固定は氷冷して30分から2時間ほど行うのが普通です。その後、エタノールないしはアセトンなどの水溶液を用いて脱水を行います。50-70%の水溶液からスタートし、最後にはモレキュラーシーブなどで水分をできるだけ取り去った100%のエタノールなどに置換し、さらに酸化プロピレンなどの有機溶媒に置換します。その後それをさらに樹脂に置換し、最終的には100%の樹脂につかった状態で60度のオーブンに入れる等して熱重合によって樹脂を硬化させ包埋を完了させます。固定から包埋完了までは、通常数日間はかかるものです。

 この間に、包埋自体には直接関係しませんが、ウランによるブロック染色を行うのが普通です。固定と脱水の間にウランの水溶液に2時間から一晩試料を浸けます。これは試料内の構造にウランが結合して、像のコントラストを増強させるのが目的です。像のコントラストに関しては、オスミウム自体も重金属なので像のコントラストをつけるのに一役買っています。さらに前固定の際に固定液にタンニン酸を入れておくと、タンニン酸がタンパク質に付着し、それがウランなどの重金属による電子染色の「のり」をよくするようで細胞骨格等を強調したい時に使われる場合があります。もっとも、界面活性剤等で細胞内の可溶性のタンパク質をかなり除去しておかないと、細胞内全体がやたらに黒くなってかえって構造が見にくくなることがあります。


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