更新日 2019年10月1日
米 村 研 究 室
電子顕微鏡の扱いと画像を記録することは薄切技術以上に腕の差が出るものでした。電子顕微鏡は電場がレンズのような役割を果たして電子を適切に曲げ、像を拡大します。また、電子線が設計通りに鏡筒内を進むためには高真空であることが前提です。電場や高真空が不安定だと電子顕微鏡像そのものが安定しないので、昔は電子顕微鏡の調整そのものが観察する前に必須でした。ただし、透過型顕微鏡は20年程前にはすでにその安定性においてプラトーに達したようで、一度調整を行うとかなり長期間問題のない像が観察されるようになってきました。また、画像の記録というのはネガフィルムに撮影するということだったのですが、電顕写真における適正なフォーカス、また像の歪みの無さの判定はかなりの技術、経験が必要なものでした。撮影した写真の質もネガフィルムの現像、印画紙への焼き付けを経て初めて検討することができ、像の質が悪い時、それが固定、脱水包埋、薄切、電子染色、電子顕微鏡の調整状態、撮影状態、現像と焼き付けの状態のいずれに問題があるのかを探るのも初心者には難しいものでした。この点についても電顕用のCCDカメラが設置可能になり、少なくとも初心者にとって電顕写真を得ることの障壁は大変低くなってきました。CCDカメラを用いれば、どんな像が取得できているのかはモニター上でその場で確認できるので、少なくとも意図しなかった失敗の画像を撮るということはなくなります。CCDカメラによるデジタル画像は画素の点ではネガフィルムに遠く及ばず、一切引き延ばしもできないので、写真を撮ってから「発見」をするというようなことはなく、あくまで自分が見せたい、意図した画像になっているかどうかが重視されます。その点ではオリジナルなデータとしてはネガフィルムの方が遥かに優れていますが、撮影の簡便さ、デジタル画像の利便性を考えると用途に応じて積極的に使っていきたいものです。
そのような流れからすると、透過型電子顕微鏡のハード面に詳しく調整にも慣れており、ネガフィルムへの撮影の技術も十分な人は、本当に電顕を使いこなす上では重要であり、今後ますます貴重な存在となると考えられます。
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